宮部みゆき『龍は眠る』
超能力なる非日常を提示するも、すぐにそれを否定する論理を持ち出して、読者もまた語り部と共に迷うところから引き込まれた。超越した能力を持つ者、障害を持つ者、凡人の対比と交流が密なところが本書の魅力であり、ロングセラーとなった所以か。
一方で悪役の人物造形の平坦さ、犯行動機の弱さなどは、数少ない弱点に思えた。犯人の計画はリスクが大きく、複雑だった。そして得られるものがそれほど魅力的には書かれていない。愛する人と結ばれず、断腸の思いで意に沿わぬ人と結婚した犯人の無念さがあまり描かれておらず、行間からも伝わってこない。
それにしてもこの人の文章はうまい。いわゆる文学における名文、美文のたぐいではない、ストーリーを語る筆の運びの巧みさ、描写と会話とのバランス、文章を意識させず必要最低限の表現で映像をみせるかのような描写がすばらしい。
娯楽小説、推理小説として人に勧めたい作品。